1.個人情報保護法をめぐる対立
  平成27年改正個人情報保護法の成立によって、平成29年5月30日以降、 管理組合は個人情報
 保護法の適用を受ける個人情報取扱事業者となった。
  個人情報保護法には「個人情報の流通・利用」と「個人情報の保護」の二つの価値観が共存
 している。従ってこの法には、情報化社会とグローバル経済のもとで個人情報の利用拡大をめざ
 す産業側と、 過剰反応という批判を受けながら基本的人権としての自己決定権、 プライバシー
 権を守ろうとする市民・消費者側の対立がある。
  改正法の審議会でこの二つの価値観の間で徹底した議論が行われたのではなく、 平行線のまま
 問題を棚上げして改正法施行後に発足する個人情報委員会で決定される政令や委員会規則に委任
 する形で先送りした。

2.管理組合は、個人情報の利用によって経済的利益を得る立場でもないし、 建物の維持管理に
 関する協同事業の仕組みの中で要求される組合員相互の最低限の個人情報の開示の必要性を否定
 する立場でもないので、 この二つの価値観の対立からは無縁だった。
  しかし平成27年改正個人情報保護法の成立によって、管理組合は個人情報保護法の適用を受け
 る個人情報取扱事業者となったため、 この法律が抱える問題点に向き合わざるを得なくなった。
  そこで、個人情報の扱いについて、管理組合の中に個人情報保護法をめぐる価値観の対立と混
 乱を持ち込まずに、「公正な社会」を実現するために、 個人情報によって特定される個人が自ら
 の個人情報の取り扱いに不安を感じる状況をなくすこと、それが管理組合の取り扱いの目的となる。

3.滞納者の氏名公表はプライバシー侵害にあたるか
  従来から、滞納者の氏名を公表することは、 当該区分所有者のプライバシー侵害や名誉毀損に
 該当するかどうかの争いがあった。
  プライバシー権は、伝統的には 「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と
 解されている。管理費等の滞納は他者に知られたくない私生活上の事実に該当するといえるので、
 慎重な取り扱いが必要である。
  滞納が事実であっても、滞納者の氏名の公表の仕方によっては、プライバシー侵害として違法に
 なり、損害賠償義務を負う場合がある。
  
  管理組合が滞納者の氏名を公表し、滞納者がプライバシー侵害として訴訟に訴えた場合、 滞納
 者の氏名公表がプライバシー侵害にあたらないとされるためには、 単なる私的事実ではなく公共
 の利害に関する事実であること及び表現内容や公開手段・方法が不当なものでないことが必要と
 される。
  そして実際の裁判では、 滞納者の個性等に起因した嫌がらせや他の区分所有者に対する見せし
 めなどの不当性の有無を争点として、 公表の動機、目的、公表に至るまでの経緯と手続きの正当
 性等、その内容や状況に照らして判断されてきたことを知っておく必要がある。
  
  実際の滞納に関する訴訟では、本来争点となるべき滞納の態様(支払意志と支払能力、 督促交渉
 経過等)よりも、組合側の手続きの正当性の釈明に多くの時間と労力が割かれる可能性がある。
  その場合の「手続きの正当性」とは、例えば管理組合の最高意思決定機関である管理組合総会で、
  滞納者の氏名を公表することを決議したとしても、 管理規約で公表基準や公表方法を示していな
 ければ、決議無効の訴えが提起された場合、 その総会議決は無効とされてきている。
  なぜなら、規約に定める場合には、すべての区分所有者が同様の義務を負うことになるのに対し、
  集会決議では滞納者の個性等に起因して、恣意的(しいてき=その場の雰囲気で、気まぐれで)、
  偏頗的(へんぱてき=かたよって不公平な)集会決議がされるおそれがあることが認識されてい
 るからである。

4.以上より、管理組合は管理費等滞納者の氏名公表に至る経緯、目的、公表内容、公表方法及び
 公表までに取られた手続き等が、 正当なものであることの立証を求められることに注意するとと
 もに、管理規約で公表基準や公表方法を示すように規約改定等を実施しておくことが肝要である。

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