1.はじめに
  相続税の改正によって、2015年(平成27年)以降の相続については、実質相続税が増税に
 なった。そこで相続対策というと、相続税など税金対策をイメージするかもしれないが、
 相続税の節税対策だけをしていればよいというものではない。
 相続問題を検討する際には、下記の3つの視点から、バランスのとれた準備をしておく必要が
 ある。

・相続トラブルを回避するための「争族対策」
・相続税節税などの「相続税対策」
・相続開始後に税金をきちんと支払うための「納税資金の確保」

2.争族(相続トラブル)対策(相続人同士のトラブルを回避するための対策)
  相続が発生すると、相続人たちは自分たちで話し合って遺産の具体的な分け方を決めることに
 なる(遺産分割協議)。
  しかし、この時相続人間の話し合いがまとまらず、トラブルに発展するケースが多々ある。
 裁判所の司法統計では、相続トラブルに関する件数は、ここ10年で約3割増加とのこと。
  調停や裁判になると、解決までさらに何年もかかってしまうことから、しっかり争族対策をして
 おく必要がある。
 
 1)争族(相続トラブル)対策として、最も重要かつ有効なのが遺言書の作成。
  ※相続財産はプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれる。
   →マイナスの財産の方が多い時には、相続放棄手続きをとるか否かを検討する必要あり。

  ・遺言書がないと遺産分割協議が成立しない限り、一切遺産に手をつけることができない。
   →相続争いが起こっている間、遺産が宙に浮いた状態になってしまい、残された遺族が生活に
    困るというケースも考えられる。
   ➡遺言書が残されていれば、遺言内容に従って遺産が相続されるため、相続人たちが遺産分割
    協議をする必要がない。

  ・ただし、遺言書はただ作成すればよいというものではありません。
   遺言書には、遺留分等に配慮した内容で作成しなければ、遺言書の存在自体がかえってトラブ
   ルの元になってしまうこともあるため。
    ※遺留分とは、法定相続人に認められる最低限の相続分
    ※遺留分を侵害した遺言書の場合、遺留分権利者が侵害者に対して「遺留分減殺請求」で
     遺留分相当額の返還を請求するので、かえってトラブルが発生してしまうため。

3.相続税対策(相続税をいかに減らすかという対策)
  ・2015年(平成27年)以降の相続については実質相続税が増税になり、
  ・相続税の課税対象者も増えたことから、早めに検討を始める必要がある。
  ・相続税対策を行うか否かで、納める税金の額が何十万、何百万と変わることもあるため、
   生前から計画をたて、相続税を減らすための節税対策を検討することは大変重要。

  1)相続税対策としては「生命保険」の活用が効果的。
   ◎生命保険の死亡保険金には、高い相続税の控除(差し引くこと)が認められているから。
    →死亡保険金を受け取った場合には、「500万円×法定相続人数」の控除を受けられる。

 2)小規模宅地の特例
    相続税対策として「小規模宅地の特例」を利用する方法
    ・宅地を相続する場合において、一定面積までの評価額を20%または50%にまで減額して
     もらえる制度
    ・被相続人が居住していた住居や賃貸借以外の事業に利用していた土地の場合には、20%に
     まで減額。
    ・賃貸業に利用していた場合には50%になる。
   ➡控除率がかなり高いので、現金や預貯金などの流動資産がある場合、不動産を購入して
    おくと相続税対策になる。

 3)居住用財産贈与の配偶者控除
   配偶者がいる方の場合には、配偶者に対して居住用の不動産(自宅)や自宅建築費用、増改築
  の費用を生前贈与する節税方法がある。
  居住用不動産やその購入資金(建築費用、増改築の費用を含む)を配偶者に贈与するときには、
  最大2,000万円までの贈与分が無税となる配偶者控除を受けることができる。
   ※配偶者より自分の方が先に亡くなる可能性が高い場合などには、残された配偶者のために
    も、検討してみることが肝要。

 4)子や孫へのマイホーム資金の贈与
   子どもや孫がいる方の場合には、子どもや孫へマイホーム購入資金を贈与する方法を推奨。
   →資金によって購入する住宅が省エネ住宅なら1200万円、それ以外の住宅なら700万円まで
    の贈与分が無税となる。

 5)結婚・子育て資金&教育資金の贈与
   子どもや孫がいる場合、結婚や子育て資金として金銭を贈与する方法もある。
   →最大1000万円までの贈与分が非課税となる(結婚資金については300万円まで)。

 6)ジュニアNISAの活用
   ジュニアNISAの口座を作り資金を贈与して、その運用益を子どもや孫たちに残す方法
   ※ジュニアNISA=未成年の子どもが利用できる証券口座の1種
    →株式売却や配当金、投資信託による利益や配当金などにかかる税金が0円となる。
     (最大投資枠は80万円)
 
4.納税資金の確保(相続税の納税資金を準備するための対策)
  ・相続税の納税資金が足りず、相続税納付を遅延すると、多額の延滞税を課されたり、
   相続人自身の財産を差し押さえられたりする可能性もあり、相続した人が納税資金に
   困らないように、生命保険を活用したり暦年贈与を行ったりして、納税資金を準備
   しておく必要がある。
 1)相続税は、金銭で即納することが原則
   ・不動産や株式などの「物」が遺産の大半だったら、多額の相続税が発生していても
    相続税を支払えないことが頻繁に起こる。
    →納税資金の用意がなく、相続人たちが相続税を払えない場合には、延納や物納を検討
     することになる。
    ※延納→条件を満たしている場合に最長20年の年賦延納(分割払い)が認められる。
        分割払いのため、当然利息がかかるし、延納申請書を提出する必要がある。
    ※物納→お金ではなく相続した相続財産(不動産など)で納税する方法。
     物納申請をしたあと延納申請に切り替えることができるが、原則として延納から物納へ
     の変更はできない。

    ※物納するときには、不動産が「相続税評価額」によって評価されるため、相続人に
     とって不利になる可能性がある。
     ←不動産のうち、土地の相続税評価額は時価の8割程度、建物の相続税評価額は時価
      の7割程度のため、不動産の価格が安く見積もられてしまう。
      →物納をするよりも土地建物を自分で売却して、売却代金で相続税を支払う方が
       損失が少ない。
 
    検討する時間は、相続発生後相続税を納税するまでの10カ月しかない。
    その間に葬儀、各種の手続き、遺産分割協議などをしていると、不動産を売却する時間
    などなくなってしまうケースがほとんど。
    ➡相続税が予想される時には、すぐに現金で相続税を支払えるように納税資金の準備を
     万端にしておくことが肝要。


 2)相続税の納付期限は、申告期限と同様に「死亡日の翌日から10カ月以内」に納める。
   →この期限までに相続税を納税しないと、年利14.6%の延滞税がかかる。

 3)生命保険の死亡保険金の活用
   納税資金を確保するための方法としては、生命保険を利用する方法がある。
  ・高額な死亡保険金を受け取れる終身保険に入り、相続人を死亡保険金受取人に指定しておけば、
   相続が起こったときにスムーズに相続税を支払うことができる。

  ・生命保険については、相続税の控除の制度があるので、大きな節税効果が期待できるが、
   さらにそのお金を納税資金に使うことができるので、節税及び資金の確保の意味でも
   メリットの多い方法といえる。

 4)退職金の活用
  生命保険の他に、死亡退職金を利用する方法もある。
  ※死亡退職金=経営者や会社員が在職中に死亡したときに、遺族に支払われる退職金
   死亡退職金についても、生命保険と同様の取扱いが認められている。
   →受け取った退職金は相続税課税の対象になり、大きな控除が認められる。
    控除枠も生命保険と同様で、「500万円×法定相続人数」で税負担が軽くなる。

  ※退職金規程によって当人が死亡した時に死亡退職金が支給されるようにしておくと、
   節税できると同時に遺族は受け取った死亡退職金により、スムーズに相続税を支払う
   ことができる。
   →同族会社の中小企業などではよく使われる手法で、検討の価値あり。

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