1.業務委託契約の法的性質
契約の種類としては様々なものがあるが、よく利用される契約類型は典型契約と呼ばれる。
贈与、売買、賃貸借、請負、委任など全部で13種類は民法に定められており、「業務委託」という類型はない。
業務委託契約の法的性質は、委託する業務によって変わるが、通常は民法上の請負、準委任、寄託などに該当する。
具体例は以下の通り
・商品の製造や開発などの業務を委託する場合→請負
・物品の保管や管理を委託する場合→寄託
・コンサルティングを依頼する場合→準委任
業務を委託する場合には「準委任」となるケースが多くなる。
◎「委任」は法律行為を委託する場合なので
2.実質的に雇用契約なら労働法の規制を受ける
会社で人を雇用すると、通常雇用契約(労働契約)となる。
→会社が雇用保険や社会保険の保険料を負担することとなる。
→経営者の方は、雇用契約(労働契約)ではなく、業務委託契約を結ぶことが多くなる。
しかし、内容として実質的に雇用契約である場合には、労働基準法など労働者保護のための法律の規制を受ける。
→最低賃金以上の支払い、残業代の支払い、有給休暇の付与、社会保険料の負担などの義務が生じる。
3.「使用従属関係」があれば雇用になってしまう
業務委託契約と雇用契約の違いは、「使用従属関係」があるかどうか。
・業務委託契約の場合には、使用従属関係がない→依頼した仕事を受けるかどうかの自由がある。
・雇用契約の場合には、指揮命令の程度が強く、業務上の命令には従う必要がある。
→使用従属関係があれば、契約書のタイトルに関係なく、雇用契約とみなされる。
4.社外の人に依頼する場合でも雇用とみなされることがある
「従業員でない社外の人に外注する場合でも、実態によって雇用と評価されることがある。
→業務委託契約を結ぶときには、契約の内容に十分注意する必要がある。
5.業務委託契約では下請法の規制を受けることがある
1)業務委託契約が、物品の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に該当する場合
→下請法の規制を受けることがある。
※下請法とは、大規模な親事業者が小規模な下請事業者と契約する場合に、親事業者が優越的地位を
濫用することを規制し、下請事業者を保護する法律
2)下請法による規制の内容
下請法が適用される場合
→親事業者の義務及び禁止行為
①発注書面の交付義務、
②支払期日を定める義務、
③遅延利息の支払義務
④下請代金支払遅延の禁止、
⑤受領拒否の禁止
※下請法に違反すれば罰則もあるため、契約書の内容に十分注意する必要がある。
6.業務委託契約書の記載事項と作成のポイント
1)委託する業務の範囲
通常の典型契約と異なり、業務委託契約はどの契約類型に該当するかが最初から明確になっていないため、
委託する業務の範囲を自由に定めることができる。
逆に言うと、業務委託契約では、契約書に業務範囲を明記しておかなければ争いになる可能性がある。
双方が誤解のないよう、業務範囲をできるだけ具体的に記載することが必要。
2)有効期間
契約の有効期間は、業務委託契約で必ず定めないといけないものではない。
一方、コンサルティング契約など継続的な業務の場合には、有効期間を定めておくことが安心。
→有効期間満了前一定期間内に申し出ない場合には、自動的に更新される旨を合わせて定めることもできる。
3)対価の支払方法
業務委託契約の対価は「報酬」や「委託代金」と呼ばれる。
業務委託契約書では、①対価の支払方法、②継続的な業務の場合は何日締め何日払いなのか、
③振込で支払う場合には振込手数料はどちらが負担するのか、等記載する。
4)費用の負担
委託業務の遂行に必要な費用(経費)について、委託者と受託者のどちらが負担するかを明記。
5)権利の帰属
委託業務の成果物について著作権などの知的財産権が発生する場合、その権利がどちらに帰属するかを定める。
具体例:記事の執筆の場合、著作権は原則的に執筆者にある。
→委託者側が記事を利用したい場合、著作権を譲渡してもらう旨定めておく必要がある。
6)秘密保持
委託業務を行う際には、相手先の秘密情報を知る機会が多くなる。
→秘密を外部に漏らさないよう、秘密保持条項を入れておく必要がある。
7)成果の無保証
コンサルティング契約などは指導や助言をすること自体が業務になる
→成果が出ることまで保証するものではないことを明記しておくことが必要。
8)再委託の可否
業務を委託する場合、外注先として信頼できる会社を選んで任せることが多い。
→外注先が委託業務を下請けに出すと困る場合には、再委託禁止の条項を入れておく。
9)競業避止
受託者は委託業務を行ううちに、委託者側の業務ノウハウを知ることになる。
ノウハウを利用して委託業務と同一・類似の業務をすると、委託者の業務の妨げになる。
受託者が同一・類似の業務を行うことを、合理的な期間であれば契約により禁止することも可能。
10)引き抜き行為の禁止
業務委託契約を結ぶと、委託会社が受託会社の社員と長期間一緒に仕事をすることもある。
→委託会社が受託会社の社員を引き抜いて直接雇用するような行為をあらかじめ契約で禁止しておくこと。
11)解約
業務委託契約は、双方の信頼関係にもとづき存続するもの。
信頼関係が破綻するような事態になったときのため、解約できる旨の解除条項を入れておく。
→具体的に、どのような場合に契約解除ができるかを明記しておく。
12)裁判管轄
契約に関して当事者間で争いが起こり、裁判所で解決する必要が生じた場合のため
→専属的合意管轄として両当事者で決めた裁判所を記載しておく。
◎当事者同士が離れている場合には、裁判のために遠方まで移動する手間が発生するため。
13)継続発注の場合には基本契約書を作成する
継続的に業務を発注する場合、案件ごとに具体的な内容が異なり、その都度報酬を決めて発注するようなケース。
取引全体のルールを定めた基本契約を結び、個々の案件については個別契約で定めるという方法
→「業務委託基本契約書」を作成した上で、個別契約については発注書やメールのやりとりで契約を結ぶ形にするとよい。
◎案件ごとに契約書を作成していると手間がかかるため、
14)業務委託契約書の印紙
契約書が印紙税法の課税文書に該当する場合には、収入印紙を貼付して印紙税を納める必要あり。
業務委託契約書に印紙税が課されるかどうかは、その契約の法的性質によって変わる。
具体的には、業務委託契約書が、印紙税法の2号文書または7号文書に該当する場合には、印紙税の課税対象になる。
①請負に関する契約書(2号文書)
業務委託契約書が請負に関するものである場合、印紙税法の「2号文書」に該当し、印紙税がかかる。
税額については、次のとおり
契約金額の記載がないもの…200円
1万円未満…非課税
1万円以上100万円以下…200円
100万円超200万円以下…400円
200万円超300万円以下…1000円
300万円超500万円以下…2000円
500万円超1000万円以下…1万円
1000万円超5000万円以下…2万円
②継続的取引の基本となる契約書(7号文書)
業務委託契約書のうち、継続的取引の基本となる契約書は、印紙税法の「7号文書」として課税対象になり、
1通につき4000円の印紙税が課される。(契約期間が3か月以内で、かつ、更新の定めがない場合→非課税
③業務委託契約の法的性質が委任や準委任の場合→下記の場合、4000円の印紙税がかかる。
○契約期間の定めがない
○契約期間が3か月を超えている
○契約期間に関係なく更新の条項がある
※なお、業務委託契約が継続的な請負に関するものである場合、2号文書だけでなく、7号文書にも該当する
→契約金額の記載があれば2号文書、契約金額の記載がなければ7号文書として扱われる。
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