家族信託を組むことにより困ってしまうこと、リスクがあるかについては、基本的にはないのですが、
注意すべき点を指摘しておきます。

1.損益通算ができなくなる。
  収益物件を信託財産に入れた場合、この信託不動産の年間収支上の赤字は、なかったものと
 みなされる。つまり、信託不動産に関する損失は、信託財産以外からの所得と損益通算して
 課税対象の所得を減らすことができない。
  また、その損失の翌年への繰越しもできないため、税務的に不利益が生じないかどうかは、
 十分な検討・検証が必要。
  さらに、信託契約を複数に分けた場合も、それぞれの信託契約をまたいだ損益通算もできない
 ため、家族信託の設計にあたっては、その点にも精通した専門家や税理士等にご相談の上、設計
 をする必要がある。

2.家族信託でもできないことがある(信託の限界)。
 具体例としては以下の通り。
 ・遺留分減殺対象財産の順序指定
 ・相続発生時の遺産全てを生前の信託契約で網羅しておくことができない。
  →信託財産から漏れる財産について遺産分割協議を排除するには、信託契約とは別に遺言書を
   作成し、主たる遺産以外のすべての遺産の承継先を指定しておく必要がある。
・成年後見制度との比較における「身上監護」の問題がある。
  →信託の受託者は「身上監護権」がないため、「受託者」の身分で本人の入院手続きや施設
   入所手続きをすることができない。
   →身上監護権が必要であれば、成年後見制度を利用して、後見人として身上監護権を行使
    することが必要。実質的には子や家族である受託者が身上監護面でも対応できるケース
    は多いともいえる。

3.税務申告の手間が増す。
  資産の一部又は全部を信託財産に入れた場合、そこから年間3万円以上の収入がある場合は、
 信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出する必要がある。
  また、毎年の確定申告の際、信託財産から不動産所得がある方は、不動産所得用の明細書の
 他に信託財産に関する明細書を別に作成して添付する必要がある。

4.実務に精通した専門家が少ない
  家族信託は、弁護士・司法書士・税理士等の法律専門職なら、あるいは公証役場の公証人なら、
 誰にでも相談できるという内容ではない。
  最先端の財産管理・資産承継の仕組みである家族信託についてきちんとした見識と実務経験が
 ある方に相談することが必要。

5.家族信託は「目的」ではなく「手段」という理解
 1)相続税対策として、家族信託組成後に不動産を売却したり、買い替えたり、賃貸アパートを
  建設したりして保有資産の組換えを実行することはあるが、しかし本来は、家族信託=節税対策
  とはいえない。単に家族信託を組むだけでは直接的な節税効果は見込めない。具体的には相続
  発生時における財産評価の減額効果が無いこと等は十分な理解がほしい。
  →節税対策として家族信託を検討する方は、そのための青写真(節税計画)が必要。

 2)老親や家族にとって何を実現したいのかという「目的」を明確にすることがまず大切。
  ・相続税対策なのか、
  ・成年後見制度に代わる負担の少ない柔軟な財産管理の実現なのか、
  ・将来の遺産争いを予防する目的なのか、
  ・認知症による資産凍結対策なのか、
  ・資産凍結回避の先にある相続税対策なのか
  ・空き家対策なのか、
  ・事業承継対策なのか、
  ・共有不動産の塩漬け回避策なのか
  ・親なき後問題への備えなのか
   →まずは、家族内で意思統一をすること。
    家族信託はこのような目的に応えうる1つの「手段」であるという正しい理解のもと、
    本人及び家族の“想い”を皆で共有した上で、その目的を実現する選択肢の一つとして
    家族信託を検討することが大切。

6.専門家への報酬を必要経費と割り切る。
  家族信託は
  ①最先端の仕組みであり、
  ②誰でも相談にのれる訳ではない
  ③多方面の法的知識を要する
  ④家族会議に何度も同席することも想定される
  ⑤契約締結後も、信託契約が継続する限りずっとサポートする前提で関わる。
   →報酬は高額で、信託の実行時にある程度まとまった費用がかかる。
  しかし、
  ①それ以後のコストはほとんどかからない。
  ②費用対効果として、先行投資で、後々の円満円滑な財産管理と資産承継が実現できるなら、
   必要経費と思っていただけるお客様が多い。
  ③両親の老後の財産管理やこれから先何十年にもわたる財産管理・資産承継の道筋を
   きちんと作れることなど、長期的な視点に立てば決して高額な支出とは言えない。

7.長期に亘り当事者を拘束
  信託の持つ機能として「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」として、1次相続だけでなく、
 2次以降の財産承継者まで自分一人で決定できるという画期的な機能が信託にはある。
  これにより、相続関係が複雑な家庭(前妻との間に子がいるケース)などの資産承継や
 事業承継などでは、この機能が大きな効果を持つ可能性がある。
  ただ、この機能は、何世代にもまたがり、長期に亘って資産の処分に制限をかけるような
 ことにもなりかねず、かえって争族や不測の事態を誘発しかねないリスクがあるのも事実。
  20年、30年先を見据えた家族信託の設計には、通常以上の熟慮と親族関係者への想いの
 伝達・共有・納得が必要。

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